この項を、この春めでたく第一志望の高校に入学した私のかわいい姪っ子に捧げようかと思ったんだけど
どーやら彼女の進学先には制服がないみたいだ、じゃあ捧げらんねえなぁ



変人堤じゃあるまいし、こんなん解るか。ふん

1時間目は数学ですが
教科書が揃うまで
委員の更科さんにひっついてらっしゃい
川原泉『笑う大天使』より

 

私の母校なら、仮に年度途中の編入者がいたとして、彼は新しい教科書をわざわざ取り寄せなくて良い。
校内を探せば卒業生が捨てて後輩のために残して行った新品同様の教材が一通り発掘できる筈だ。
しかしさすがアーチ・エンジェルのお嬢様方はきちんと全ての教科書を引っさげてご卒業なさるらしい。
感心感心。
という与太話はおいといて


史緒さんの大天使編入は、どうやら相当に突然に決まった物だったようだ。
教科書のような絶対に必要な最低限度の物さえ支度が間に合わない程に突然に。
であるにもかかわらず、制服はきちんと大天使の物を御着用なさっている史緒様。
なぜだ。
体操服はいい。いかに良家の子女の多い大天使だって、あれは「御仕立て」ではないだろう。
お手伝いさんを学園指定の洋品店に遣り「高等部 Mサイズ」を買って来て貰うだけだ。
制帽、通学鞄、そして上履きも。
だけど制服は。


私の中学入学は20(+α)年前。
普通にややビンボな家に育ち、学用品かたっぱしから姉兄のお下がりで済まされた私でさえ
制服だけは私専用の新品をデパートの特設制服売り場で採寸して作って貰えた。
そうだ、団地の同じ棟に住む同学年のフーちゃんと恭ちゃんと3組の母子で一緒に行ったんだ。
(でも恭ちゃんは小学校卒業と同時に他県に引っ越してしまい、あの制服はどうなったんだろう)
お店では、次から次に同じ学校の友達に遭遇した。
別の小学校に進んで疎遠になっていた幼稚園時代の仲良しのユキちゃんにも会った。
市内の小学6年女児全員がこの丸岡屋に詰めかけてるんじゃないかという混雑・混乱の中、
カーテンで仕切った区画にひとりずつ入れて下着に剥いてなんて手間は掛けていられない。
まわりに男子もうろうろしてる売り場で、セーターやジャンパーを着たまま上から測ったように思う。
あまり採寸の意味がない。
第一そもそも育ち盛りの年齢だ。小学6年1月の身長胸囲が中学3年3月までそのままの筈がないので
結局は「一回り大きくお作りしましょう」になってしまうのだ、いくら測ったって思い切り無駄である。
7号とか9号とかの吊るしで十分だと思う。
なのにわざわざ寸法を取って誂えて貰った。
普通に結構ビンボな家に育ち、既に解答の書き込まれたお下がり問題集を与えられて育った私でさえ。
貴族の血を引く司城家のお嬢様の制服は、絶対に絶対に間違いなく御仕立て品だった筈である。
それも、私ら庶民の制服のようなお義理に採寸してお終いの簡易式ではない。
仮縫いを2度3度と繰り返す本物の特注品であったろう。
お引渡しまでずいぶんと時間がかかったんじゃあないか。

3年後。あの年、神奈川の県立高校の合格発表は3月4日だった。
そのすぐ後の土曜の午後に隣町の「十字屋デパート」に連れて行って貰って制服を注文し、
それが出来上がってきたのは4月5日の入学式直前だった。
ほぼ1ヶ月かかったということだ。
実際、定員割れで二次募集のあった隣の高校では、入学式に中学の制服で出た新入生もいたと聞く。
通常よりも遅れて合格通知を貰った幾人かは仕立てが間に合わなかったわけである。
制服ってのは、出来上がるのに1ヶ月が必要なものなのだ。
(でも姪っ子の住む北海道の道立高校の合格発表は今年は3月16日だった。
姪っ子の学校は自由服のようだが、勿論、ふつーに制服のある道立高だってある。
発表から入学まで3週間…大丈夫なのか?
合格前提で発表前から「仮予約」を取って縫製を始めてしまうのか?
でも不合格を前提に予め滑り止めの学校の制服も注文しておく人はあまりいないだろうから
そっちが必要になっちゃった子の場合は…やっぱり間に合わないぞ??
熟練の季節工を大量に雇い入れて総力で当たれば半月でも大丈夫なのか???
↑北海道の人から見たらたかが制服で1ヶ月かかる神奈川の方が異常とか?????)

勿論「納品まで1ヶ月」は新入学の4月を控えた制服販売の超繁忙期の話である。
年度半ばの編入生の場合、制服工場は人手に余裕があり、ずっと短期間でできる可能性もある。
しかし、それでも(学期途中の半端な時期の注文でも)
「新しい制服が出来上がるまでしばらくかかりそーなんだ」
 (「その理屈には無理がある」ジェッツコミックス『コメットさんにも華がある』より)
しばらくって、どれくらい。
教科書が揃うよりも短い時間なのかな。


もしかして、大天使の教科書は「光村の国語」や「山川の日本史」のような大手出版社の量産品で無く
全てが学園の先生の著した学園独自の教科書なのかもしれない。
(ほらカトリックだしさ、生物の教科書に進化論が載っていなかったりするわけだ)
外部流出を防ぐため、年度始めに必要数を印刷した後は原版から廃棄処分になっていて
史緒さんの分1冊だけを増刷するのが大変に手間のかかる状況であったとか?
コロボックルちゃんの組に来た転入生が教科書が無くて困っているなどと聞けば
どうぞわたくしの教科書をお使いになってと差し出して下さるお姉さま方くらいいたろうにねえ。
教科書捨てていく卒業生がいなくとも。

そりとも史緒さんはデパートなんかでなく、司城家お抱えの仕立て屋さんに注文をしたのか。
そしたら仕立て屋さんが徹夜で頑張れば1日でできちゃうのかもしれない。

或いは…もしかして…史緒さんは制服など誂えなかった、ということも考えられる。
新品を用意しなくとも、司城家の納戸には大天使の制服があった。
運よく史緒さんに寸法ぴったりの、樟脳くさい、60年前の制服が。
(当初は自分に娘ができたら着せるつもりで、でも息子しか生まれなかったので)
孫娘に着せようと大事に大事に保管しておいた、顕子様の制服。
顕子様はこの日を待っていたんだ。お祖母さまは、会いたかったんだよ史緒さんに…



*史緒さんの制服が顕子様のお下がりである可能性の検証
・否定その1
「え…あのババアもか!?」
 この発言からこの瞬間まで史緒さんは顕子様が大天使卒業生であることを知らなかったことがわかる。
 樟脳の臭う古びた制服を「着なさい」と出された史緒さんが、その出所を問わずにいられる訳がない。
 制服は真っ当に史緒さんのために作られた新品だったのだろう。

・否定その2
「まるごと川原泉」に「第3代学園長メール・テレジーヌのデザインによる制服」と解説がある(1号3頁)。
 これを素直に解釈するならば、現在の制服が制定されたのはテレジーヌの学長就後ということになる。
 また「本当に聡明でお美しいお姉さまでいらっしゃいました」という学長の言葉からは
 顕子様は学長よりも上級生であったことが読み取れる。
 つまり顕子様は、学長のデザインによる現在の制服は着たことがなかったことになる。

・否定その2の否定1
 まず「メール・テレジーヌが複数いる」という可能性を考慮する必要がある。
 制服をデザインした人物は「メール・テレジーヌ」である。
 史緒さんを迎え入れた学園長は「メール・テレジーヌ・小島」と自己紹介している。
 おそらく小島は先代と区別するためにわざわざ小島と名乗るのだろう。
 「まるごと川原泉」1号の「聖ミカエル学園の沿革」によれば
 明治時代の学園創設にテレジーヌという名のシスターが関わったとのことである。
 そのため、大天使の学長は代々「メール・テレジーヌ」を襲名することになってはいるのかもしれない。
 制服をデザインした3代目学長と現学長小島が別のメール・テレジーヌであるなら、
 3代目は顕子様よりも古い時代の人である可能性が生じ、
 顕子様の時代には既に現在と同じ形の制服が用いられていたことになる。

・否定その2の否定2
 また仮に「3代目」と「小島」が普通に同一人物であるとして、
 学長は実は顕子様よりも年上で、顕子様の在学当時すでに学長職に就いていたという考え方も出来る。
 確かに学長は「聡明で(略)お姉さま」と言ったが、これは学長が顕子様の後輩である証拠にならない。
 日本語は「誰が」や「誰の」に当たる語を省略しまくる言語である。
 これを補えば「私たちのお姉さま」でなく「当時の下級生たちのお姉さま」になるかもしれないのだ。
 学長は「気高くお優しく下級生の憧れの的」と言った。「私たちの憧れ」と言ったのではない。

・否定その2の否定3
 史緒さんの編入時の学長の発言を素直に解釈すれば、勿論、学長は顕子様の後輩であることになるが
 しかし、だからと言って、顕子様ご在学当時の制服が今の物と違ったと決め付けてはならない。
 小島は在学中から学園長と二足のワラジをはいた兼業農家をしていたかもしれないのだ。
 学園長でもあった小島が制服デザインをしたのが仮に高等部1年のときであるとして
 顕子様がそのときにまだ高等部在学中であったなら、彼女は現在の制服を着たことがある計算になる。

・否定その2の否定4
 もう1つ、「まるごと川原泉」の解説が言葉足らずなだけという説もたててみよう。
 「高等部1年生の小島が家庭科の課題で提出した制服意匠画が非常に優れていたため実際に採用され
 そして彼女は後に学長となった」がより正しい表記なのかもしれない。
 この場合も、顕子様は小島デザインの現制服をお召しになる機会があったと考えられる。

・否定その2の否定5
 という考察全てを無駄にし、そもそも私は「まるごと川原泉」の編集者後付け設定を検証資料と認めない。
 「棒タイ」て何だよ「棒タイ」って(1号3頁左下)。
 辞書を確認してアーチエンジェルを訂正した川原は無知の知の分まだエライ。

・否定その2の否定を肯定する部分的証拠
 「え…あのババアもか!?」
 少なくとも、顕子様のシャツの襟とそこに結ばったBowタイ(しつこい^^)は、現在の物と同じ形である。

・否定その2の否定を肯定する部分的証拠の否定
 これは史緒さんの想像図に過ぎない。顕子様のご通学服は実際は矢絣の着物に袴だったかもしれない。

・否定その3
 大天使の制服はかなり頻繁に微細部分で修正が行なわれるようである。
 白河綾乃さんの制帽と由良更紗ちゃんの制帽、そして史緒さんたちの制帽は
 よく見るとそれぞれ徽章が異なっているのである。
 60(±α)年前の顕子様の時代の帽子の徽章も、おそらく現在と全く違った物であったことと思われる。
 帽子だけならば冒頭で述べたようにそれほど時間を必要とせずに新品を入手できる筈であるが
 制服は60年物・帽子だけは新品というのは結構みっともなくないか。
 制帽が新品ならば制服も新品であってほしい。
 なお『笑う大天使特別編』(Melody06年8月号)で描かれた帽子は史緒さんたちの物と同じである。
 桜子薫子コンビが制帽を被っている姿は確認できなかった。

・否定その3の否定
 徽章はワッペンか、バッヂか、何にせよベレー帽に後から付けられる物と推測される。
 顕子様の制帽にワッペンだけ新品を縫い付けたなら、それほど変ではないだろう。

2010.4.10


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